「電力業界の研究をやりたいんだけど、どういう情報を集めればいいの?」
「そもそも電力業界ってどんなビジネスモデルなんだろう?」
「電力業界って今後どうなるの?」
とあなたも思っているのではないでしょうか?
今回はそんなあなたのために、電力業界について徹底解説します!
何をしていて、どうやって運営が成り立っているのかについて知ることで就職活動を有利に展開することができるでしょう。
経済研究所やリクナビ、スマートジャパンなど様々なツールが発表しているデータをもとに正しい知識を加えていきましょう。
この記事の登場人物
富田:理工学部の3年生。自己主張は苦手だが心根は優しい草食系男子。メーカーを志望して就活をしている。
白河:社会人3年目のヘッドハンター。ホワイトアカデミー在学中に内定をもらった東証一部の人材系企業で勤務。ホワイトアカデミーとは、特別講師という形で現在も付き合いが続いている。
目次
業界の構造
現代人が生活していくのになくてはならないのが「電気」です。
台風や地震などで停電が起こったとき工場や街中をはじめ、各家庭など様々な場所でパニックが起こりました。
それだけ日常生活に密接に関係しているのが電気なのです。
その電気はまず「発電所」で作られます。
日本には原子力発電所、火力発電所、水力発電所、風力発電所など色々な発電所がありますが、たいていは郊外や山奥など市街地から遠く離れた場所で発電されています。
最終的に電気を使用する「需要者」のところまで遠い旅をしてやってくるのです。
発電所で作られる電気は1~2万ボルト程度ですが電気を送る途中で電気抵抗によるロスが生じてしまうために25~50万ボルトという高い電圧にしてから送り出されます。
電流が送電線を流れるときに電気抵抗が発生して「ジュール熱」という熱が出てきます。
この熱が出てしまう分だけ電気はロスしてしまうので電圧を高くすることで電流を少なくしてロスを減らすということが行われているのです。
発電所で作られた電気は「高圧変電所」「一次変電所」「二次変電所」「配電用変電所」と少しずつ電圧を下げていき、需要者のところに伝えていきます。
工場や家庭へは柱状変電所の変圧器で100ボルトなどに下げられてから配電されるようになっています。
電力業界はこれらを総合的に管理しており、電力会社は工場や家庭に電力を供給することで利益を発生させています。
業界の現状や動向
電力は供給電圧の違いによって分けられており、「特別高圧」「高圧」「低圧」とあってそれぞれに電気料金が設定されています。
「特別高圧」とは病院やデパートなどの大きなビル、大規模な工場などの巨大施設に使用されるものです。
「高圧」は中小工場や事務所など。
「低圧」は一般家庭に使用されています。
これらが段階的に変化を迎えているのが現状にあります。
まず2000年から特別高圧(2000kw以上)の需要者に小売り事業の部分自由化が導入されました。
ついで2004年には500kw以上に範囲が拡大され、2005年には高圧のすべて(50kw以上)にまで拡大されていきました。
そして2016年には電力の小売りが完全自由化、2018年には電気料金の自由化が実現され、電力会社だけでなく、ガス会社やケーブルテレビなど様々な業者が電気を売る時代になっています。
そして電気料金の値下げや需要者の取り合いが始まってきているのですが、そこで注目を浴びているのが「原子力発電所」の扱いです。
東日本大震災以降、危険度が注目されて稼働停止していた原子力発電所に変わって主力になったのは火力発電所でした。
しかし火力発電所は使う燃料が高騰していることもあって発電コストがかかってしまいます。
それに加えて環境破壊にもかなり影響してしまうために、電気の安定した供給と電気料金の値下げのためには原子力発電所の稼働を増やすべきだという声がでていることも事実です。
電力業界はこの事案について真剣に考えなければいけない時期に入っていると言えます。
そのあたりを踏まえて、次に「市場規模」「売上ランキング」などを紹介していきます。
電力業界の現状を知っていきましょう。
市場規模
電力業界は日常生活や生産・製造活動にも必要不可欠なものであり、あらゆる経済活動の根本となるインフラの一つだと言えます。
その市場規模は小売部門全体で見た場合、18兆円ほどとなっており、日本のGDP500兆円のうちの3~4%を占めています。
各業界における市場規模の表は以下のようになっています。
スマートジャパンより引用(http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1612/22/news014.html)
この表を見るとわかりますが、だいたいコンビニ業界の倍ほどの市場規模であり、銀行業界とほぼ同じ程度の市場規模となっています。
日常生活の貢献度や重要性から考えればさらに規模が大きくても良さそうなものですが、これには理由があります。
電力業界は非常にライフラインと密接に関係しており、「公益性」が高い業界です。
そのため単純に企業利益だけを追求していくことができないのです。
そのあたりは電鉄会社などと同じだと言えるでしょう。
ランキング
まずは国内の電力業界のランキングを見ていきますが、2018年以降は電力の小売全面自由化が始まったためにランキングの変動が予測されます。
それまでは日本では10電力事業者が家庭向けに電力を販売していましたので、まずはそのランキングを見ていきます。
スマートジャパンより引用(http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1612/22/news014.html)
やはり人口が集中しているエリアでの販売量が多くなっているのがわかります。
東京をはじめとする関東圏の「東京電力」、大阪をはじめとする近畿圏の「関西電力」、名古屋をはじめとする中部地方の「中部電力」が上位3社となっています。
そして新しく電力を販売するようになった会社もこういった人口が集中しているエリアに展開していっています。
そのためこういったエリアに住んでいる人はどこから電気を買うか選べる選択肢が多くなります。
逆に沖縄などでは新しく会社が展開していっていないために選択肢は増えていません。
世界の電力会社との販売電力量を比較したのが下記の表です。
東京電力は世界と比べても上位にいることがわかります。
各社アニュアルレポートより(https://www.kokuyo.co.jp/ir/library/annualreport.html)
収入と安定性
まずは10電力会社のそれぞれの平均年収を見ていきます。
- 東京電力ホールディングス 822万円
- 関西電力 681万円
- 中部電力 765万円
- 東北電力 736万円
- 九州電力 757万円
- 北海道電力 706万円
- 北陸電力 696万円
- 中国電力 777万円
- 四国電力 743万円
- 沖縄電力 750万円
これを見るとやはり東京電力の平均年収が高いことがわかりますが、実際には内部でもかなりの格差がでていることがわかります。
東日本大震災の際に東京電力が管轄している原子力発電所による汚染問題が起こった際に東京電力の社員の年収にも大きく影響したからです。
また、販売ランキングで2位に入っていた関西電力の平均年収が低いのは、他団体(大阪ガスなど)との価格競争に加えて、火力発電所がメインのために必要経費がかなりかさんでいることが影響していると言われています。
業界の課題
電力会社は多くの課題を抱えていると言われています。
まず原子力発電所の事故によって原子力発電所を中心とした発電計画の大きな見直しです。
安定して発電するためには現在日本には代わりとなるのは火力発電しかありません。
しかしその燃料の多くは輸入に頼っており、円安や原材料費の高騰によって発電コストは高くなるばかりとなっています。
また、発電部門と送電部門の分離化をすすめるには法的な整備が必要となりますが、現在それらの法整備が追いついていません。
環境問題も取りざたされているのですが、それらをクリアするためには新しい施設や設備が必要となります。
再生可能エネルギーなどを利用するためにも設備の充実が必要なのです。
しかしもともと公益性が強い電力会社は「利益を追求」することができません。
そのためそれほど収益性が高くなく、どこからその経費を計上してくるかも問題になっています。
業界のニュース
どの業界についてもそうですが、就職や転職をするにあたってその業界の知識を得ることや業界に関連するニュースを知っておくことは必須条件です。
常に専門書や新聞、テレビ、ネットなどから新しい情報を得るように心がけておきましょう。
ここでは最近の電力業界のニュースをいくつか紹介していきたいと思います。
ニュース①~北海道で広がる自家発電~
北海道の調査によれば最大深度7を観測した北海道地震の際に起こった大規模停電時に電力を調達することができなかった食品関連企業のうち約7割が自家発電機の導入を検討していることがわかりました。
停電によって工場の操業や店舗の営業に支障がでたとする道内の企業は82%にも達しており停電時に自衛できる方法を考えていることがよくわかります。
「個人で導入を検討している」「自社で導入を検討している」「自家発電機を譲り受けや借り受けすることを検討している」と回答した企業や事業主が7割に対して、「導入は検討していない」と回答したのが3割程度であったとされています。
導入を検討していない理由としては「自家発電機が高額である」「自家発電機では電力の限界がある」「自社が発電できても取引先が対応していなければ意味がない」などがあります。
特に最後の理由は訴訟問題に発展しているため注意が必要です。
自社が自家発電機を使用して牛から搾乳を行ったにもかかわらず、納入先の工場が停電により操業停止していたために納品を拒否されたというものです。
生乳は結局捨ててしまうしかなく、多額の損害が出たということで訴訟が起きています。
自家発電に関しては当分の間、注意して情報を集める必要があるでしょう。
ニュース②~九州電力が住宅用太陽光発電を継続買取~
九州電力は2019年11月から固定価格買い取り制度FITが順次終了していく住宅用太陽光発電に関して引き続いて買い取りをしていく方針を発表しました。
買い取り量や買取金額に関しては2018年内に発表するとしています。
これは2019年11月より期間は10年間、買取量は約41万5000kw分として始まったもので、2019年度中にこの分に関しては満期になるとされています。
住宅用太陽光発電の買い取りに関しては中部電力なども行うことを公表しており、さらに広がりを見せていくと考えられています。
ニュース③~電柱に宅配ロッカーを設置~
関西電力は街中にある電柱に宅配ロッカーを設置して、ここで荷物を受け取ることができる実証実験を始めたと発表しました。
まず2019年3月までの期間限定で京都府精華町にある電柱3本にタッチパネルで操作する宅配ロッカーを設置しました。
この有効性が実証できれば随時展開していくとしており、全国電気が通っているところであればどこにでもある電柱を宅配ロッカーとして利用することができれば、運送会社の配送負担を大きく減らすことができるとして期待されています。
志望動機
就職活動時に重要になるのが「志望動機」です。
その会社にどういった考えを持っているか、自分自身はどのような職業観を持っているかが示されるために企業からしても採用に直結するものとして扱っています。
電力会社特有のものとしては「公益性」があります。
電力会社は社会的なインフラを扱う会社ですので、電力の販売以外にも様々な活動を行っています。
地域の社会行事に参加していたり、地元のスポーツチームのスポンサーになったり、地域活性イベントへの投資などがそれに当たります。
小中学校での教育関連プログラムにも積極的に参加していますので、志望動機にそういった内容を入れるのは効果的だと言えます。
逆に敬遠される動機としては「福利厚生などの待遇面」です。
電力会社は確かに福利厚生などの待遇が厚いところが多いのですが、その企業の属性から考えると天災や事故などが起こると真っ先に行動しなければならない業界でもあります。
そのためには緊急の出勤や問題が解決するまで連続して勤務するということもあります。あまりにも休日や休暇、労働時間などを優先していることを主張すると「業界として向いていない人材」と取られる可能性があります。
あくまでも「公益性」を重視している業界であることを忘れないようにしましょう。
ホワイト企業はコレだ!
どの業界にもホワイト企業、ブラック企業は存在します。
やはりできることならホワイト企業で働きたいものです。
そこで、ここでは電力業界のホワイト企業を3つ紹介していきたいと思います。
どういった点が優れているとホワイト企業と呼ばれるかを押さえておきましょう。
ホワイト企業①東北電力
2018年10月から一部の現場社員を除いて全社員を対象に勤務終了から次の勤務の始業までを最低でも9時間以上開けるという「勤務間インターバル」が開始されています。
これは連続勤務にならないように考えられたもので、すでに好評となっています。
また、2019年4月からは結婚や出産、介護などで退職した人を再雇用するという制度を導入する予定で、積極的な人材登用、育成を行っています。
早めの退社を促しているという社員からの声も多く、ワークバランスの良さが高く評価されています。
成果を出した分が報酬として認められるという声も多くありました。
多くの項目で高評価されていることがホワイト企業だと言ってよいでしょう。
ホワイト企業②J-POWER
もともとは国策会社だった会社で、世界各地に30を超える大規模な発電所などの設備をもっています。
各拠点ごとに独身寮や社宅が用意されており、イベントや育児などの目的でとれるライフサポート休暇や無認可保育所の保育料補助制度などを整備しており、その福利厚生の厚さが特に評価されています。
さらに働き方改革はすすめられており、月に1日以上の有給取得奨励などの取り組みが行われています。
特に寮費や社宅がほとんど無料同然という条件はとびぬけて良いと言えます。
また、残業や休日出勤もほとんどなく、基本的に非常時だけ残業があるという声が出ています。
ホワイト企業③九州電力
2017年度に社員から募集した意見や要望をもとにして働き方改革を本格的に実施しているのが九州電力です。
業務の効率化を図るとともに会議の時間短縮をかかげており、2019年度の時間外労働を2016年度よりも2割減とする数値目標も掲げています。
また、ここも終業から次の始業まで10時間以上あけるという勤務間インターバルが実施されています。
「ひとことで言えばホワイト企業」という社員からの口コミもあるように単純に働きやすい会社と言えるでしょう。
お勧めの本
業界や企業についての知識を深めるためにはやはり本は重要な情報源です。
そこでここでは電力業界を知るための本として特におすすめできる3冊を紹介していきたいと思います。
お勧めの本①『3時間でわかるこれからの電力業界―マーケティング編―5つのトレンドワードで見る電力ビジネスの未来』
(書影からAmazonに飛べます)
●今とこれからの「電力業界ガイドブック」
電力自由化以降の電力業界を解説した業界ガイドが、多くの電力会社さんのご協力のもとに遂に完成しました。
今、電力業界(特に売電をになう「電力小売業界」)は急速に変化・多様化しつつあり、これから一気に市場・ビジネスが広がっていくと予想されています。
本書はこの業界への就職・転職を目指す方の先導役として役立つ業界ガイドとして編集しました。
(もちろん、電力会社の方が業界の動きを押さえるために使うこともできます)
●今とこれからの業界の動きをカバー
最低限知っておくべき電力業界の基本に加え、これからの電力小売業界を考えるための5つの鍵となるトレンドワード「新規事業開発(メガプレイヤー・異業種の参入)」「地域・地方」「IT・デジタル(IoT)」「コミュニティ」「エコ&ソーシャル」について分かりやすく解説し、具体的な事例を取り上げています。
続く最終章では、はずしては業界を考えられない「10電力を含むビッグプレイヤー」の動きも押さえています。
●豊富な企業データを収録(77社の最新状況を詳細解説+巻末には300社以上の企業リスト)
業界で活躍する企業について、そのビジネスドメイン・電力販売対象・サービスの特徴/強みを豊富に解説しています。気になる電力会社のチェックにお使いいただけます。
「電力業界をざっくり知りたい」「特に電力業界の未来を知りたい」という方のための電力小売業界ガイド決定版としてお届けします。
という内容の本です。
とにかく電力業界の入門書として使用できますし、10電力会社のこれまでとこれからについて書かれているのは非常にありがたい内容です。
まずはこの本からという人が多いのも納得できる一冊です。
お勧めの本②『図解入門業界研究 最新 電力・ガス業界の動向とカラクリがよ~くわかる本 [第4版]』
(書影からAmazonに飛べます)
電力・ガス業界は、東日本大震災をきっかけに大きく変化しています。これまでの発送電一貫体制が見直され、供給中心ではなく顧客の視点に立った総合エネルギー事業へ切り替わりつつあります。本書は、電力・ガス業界の基礎知識から最新の技術、各電力会社のポジションと戦略を解説した業界入門書です。小売全面自由化やICTで進化するビジネスなどもわかりすく紹介。業界人はもちろん、就職・転職志望者に役立つ情報が満載です。
ややこしくてわかりにくいエネルギー業界の全体像が説明されているので初心者でも気軽に読むことができます。
図やデータも豊富なので手元に一冊あると安心の本と言えます。
お勧めの本③『電力会社のおしごと』
(書影からAmazonに飛べます)
本書は電力会社や関連会社に入社したい高校生、大学生を対象にした就職関連書籍です。巨大な電力会社の25部門を徹底取材し、各部門の仕事内容や先輩社員のアドバイスを紹介しています。
私たちの生活に欠かせない電気。当たり前のように届く電気がどのように作られ、届けられているのか。本書を通じて第一線で働く社員の姿を理解することができます。発電や電気の販売だけでなく、町の電線の点検などの仕事や資源国との燃料調達の交渉など幅広い電力業界の仕事について書かれています。
電力業界の色々な職種を知るためにも使える本です。
業界の今後や将来
今後と将来①~安定した電力供給~
原子力発電所の稼働が完璧でない以上、火力発電所に大きな負担がかかっているという現実があります。
「高い安全性を持ったエネルギーの安定供給」は今後の電力業界の大きな課題とも言えます。
そのために風力や地熱、太陽光などの自然エネルギーを使った発電にどれだけ切り替えていけるかが問題になっていますが、自然エネルギーはエネルギー自体は無料なものの設備投資に費用がかかり、供給も安定しないためその改善が望まれています。
今後と将来②~地域とのすりよせ~
原子力発電所の再稼働や新しい発電所の建設に関しては地域との話し合いは必要不可欠です。
電気が絶対に必要なものであることは国民もみんなわかっていることですが、住んでいる地域に巨大な発電所ができるというとやはりそれは不安という人が圧倒的に多いからです。発電所をどう地域と結びつけていけるかが今後の問題と言えます。
今後と将来③~電力の小売自由化~
2016年からはじまった電力の小売自由化は電力業界の中小企業だけでなく、他の業種の企業もどんどん参入してくるという事態を引き起こしています。
需要者としては少しでも安く電力を買えるという選択肢が増える結果となっていますが、これまでの10電力会社からすれば、どう対応していくかが問われるところです。
今後の動きに注目
電力は日常生活に深く結びついているものだけに、急になくなるということはありません。
しかしここ数年で起こった電力小売自由化の波は大きく電力業界を動かしています。
今後どのように動いていくかが非常に注目されている業界であるとも言えるでしょう。